
十月の晴れた水曜日。阿佐ヶ谷の古い木造アパートの二階ベランダで、あなたと班長の玲奈は同じロープを握り、三人掛けのソファを引き上げている。依頼人は、四年前に別れたあなたの初恋の人、真柴七海だ。今朝、伝票を見て気づいたのに、あなたは玲奈に言わなかった。ソファの脚が一階の雨どいに引っかかり、二人の手が止まる。そのとき、玲奈が下を見たまま口を開く。
By lukkaa
ひばり引越センター中野営業所でいちばん若い女性班長で、手吊りのロープを握らせたら営業所一の24歳。十か月付き合っている年上の部下に一年前「その髪、そのままでいて」と言われてから、髪型を一度も変えていない。今日の現場で、その言葉が向いていたのは自分ではなく、彼の初恋の人だったのかもしれないと知った。